うきぐも考案の練習問題LWQで台詞力を鍛えようぜという話
はじめに
物語を綴る人にとって、「台詞力」は永遠の課題です。
「台詞をどう考えればいいのかわからない」「台詞はいつも難産だ」という人にも、「当たり障りのない台詞しか書けない」「もっとエモい台詞を書けるようになりたい」という人にも、
台詞力を向上させたい全ての人にオススメできる練習問題LWQを、本記事で紹介していきます。
目次
LWQとは?
漫画原作家 浮曇非路(@HiroUkigmo)が考案した、台詞力を向上させるためのトレーニング用練習問題です。
Last Words Questions*1の略で、うきぐも氏はいつも「エル・ダブ・キュー」と呼んでいます。
例えば以下のような問題です。みなさん、やってみてください。
次のシチュエーションにピッタリな台詞、及びそれに至るまでの簡単な流れを考えてください。
『雪山で一人遭難してしまった主人公。天候は荒れ、食料は尽き……。主人公は最期に一言呟き、息を引き取った。』
回答例として、以下のようなものが想定できます。
- ガタガタ震えて、「寒い……」
- 主人公は人情味溢れる人物。友人や家族のことを思い出し、「会いたかったな……みんなに、もう一度…………」
- 主人公は美食家*2。今まで食べた思い出の料理を次から次へと回想するが、最後に頭に浮かんだのは亡き母の手料理だった。「お腹空いたなぁ」
- 主人公は人付き合いが苦手な人物。しかし、ふと今までの人生を思い返してみて、周囲の人々から大いなる優しさを受け取っていたこと及びそのありがたさに気が付き、噛み締めながら、「あったけぇ」
LWQの回答を考える際の指針
闇雲に考えてもトレーニングの効果は薄いでしょう。
この問題に取り組む際の指針を簡単に説明します。LWQをやってみたい人は、参考にしてください。
台詞をどう考えればいいのかわからない・台詞はいつも難産だという人は
以下の流れで実施することをオススメします。
- 主人公 = 自分 として考える
- 主人公 = 周りの人 として考える
- 誰を主人公にするかを考える
- 例: 父
- 1を誰かへ紹介できるよう、簡単にまとめる
- 例: 高校で日本史を教えている
- 2に付随したエピソードトークをまとめる
- 例: 優しくて面倒見が良いと評判らしい。家での父には見る影もないが
- 3に付随したLast Wordsを考える
- 例: 担任クラスの生徒たちを思い出し、「ごめんな、卒業まで一緒に居れなくて」
- 誰を主人公にするかを考える
- 主人公 = 架空の人 として考える
回答例1について
台詞は、キャラクターを表現するための一手段です。キャラクター性を反映していない台詞は無意味といえます。例えば、回答例1「寒い」はどんなキャラクターにも当てはまります。これはキャラクター性を反映できていない何よりもの証拠です。
というか、「雪山」で「天候は荒れ」ているといった状況描写によって寒さは示せていますから、それをわざわざ台詞にする必要はありません。回答例1は反面教師として扱ってください。
「主人公はどういう人物なのか」を、エピソードトーク込みで具体的にしておき、それを反映させるように台詞を考えていくことが重要です。
LWQに繰り返し取り組むことで、以下の流れで台詞を考える習慣を付けると良いと思います。
- 主人公はどういう性格か?
- その性格を表す出来事・エピソードは何か?
- ここで考えたエピソードは、本編に織り込めるかもしれない
- 1, 2のようなキャラクターはこの場面でどんな台詞を口にするか?
当たり障りのない台詞しか書けない・もっとエモい台詞を書けるようになりたいという人は
全ての台詞をエモくする必要はないですが、「ここぞ」というシーンではエモさを出したいものです。
エモい台詞って具体的にどういう台詞なんでしょうか。私は、「このキャラクターはどうしてこう言ったんだろう」と想像する余地のある・味わい深い台詞がエモい台詞、だと思っています。
お客さんが味わい深い台詞を見ると、その時の発言者の心境に思いを馳せ・理解し・共感していきます。共感とは、お客さんの経験とキャラクターの境遇とが合致していることだけではなく、お客さんがキャラクターの心を理解することをも含むのです。
じゃあキャラクターの心境を逐一明言していけばOKかというと、そうでもないようです。理由は2つあります。
- 現実世界に「自分が今どう思っているか」を逐一報告する人はまず居ないので、リアリティに欠ける
- 味わい深い台詞があると、お客さんは解釈や考察などによって能動的に物語を楽しんでくれるので、満足度が高くなる
さて、上記のような味わい深い台詞を書いてエモさを演出したい人にも、LWQは有効であると考えています。LWQに対する答えを考えることは、自動的に味わい深い台詞を考えることになるのです。LWQはそうなるように設計されています。
想像の余地を作る方法の1つは、文字数よりも多くの情報量を台詞に込めることです。
LWQは、シチュエーション的に長文を答えることができません。そもそも「ポツリと一言呟き」って書いてあるし、雪山で遭難している死にかけのキャラクターが
自分の人生を振り返ってみるに、18歳のあの出来事が転機だったといえる。少し昔を思い出してみよう。そもそも人生とは、
とかグダグダ語り出したら「こいつ元気ハツラツじゃねーか」ってなるし。
しかし、死の間際という重要なシーンなので、「何か感動的なことを言わせたい」欲が働きます。
結果、「短いけど何かイイことを」の方向に思考が働き、自然と味わい深い台詞を考えてしまう。LWQはそういう問題なのです。
では、具体的にどのような台詞が味わい深い台詞といえるのか、回答例を見ながら考えていきましょう。
以下の分析内容は、あくまで私の解釈です。本記事読者のみなさんは、あなたなりの解釈を考えてみてください。
回答例2について
主人公は人情味溢れる人物。
友人や家族のことを思い出し、
「会いたかったな……みんなに、もう一度…………」
死の間際に友人や家族を思い出したお涙頂戴系ではありますが、台詞に想像の余地がありません。台詞の文字数とそこに込められた情報量とがイコールです。キャラクターの心情を明記してしまっているのです。
キャラクターの人情味溢れる部分だとか心優しい部分だとかが反映されているので、回答例1「寒い」よりは良い台詞ですが、そこまでエモくないです。
回答例3について
主人公は美食家。
今まで食べた思い出の料理を次から次へと回想するが、最後に頭に浮かんだのは亡き母の手料理だった。
「お腹空いたなぁ」
設定されたシチュエーション曰く、「食料は尽き」ています。じゃあこれ、主人公は本当にお腹をすかせているだけなのでしょうか。
恐らくそうではないでしょう。この「お腹すいたなぁ」は「お腹がすいた」の意味ではなく、「母さんの料理が食べたいなぁ」の意味だと思います。つまりそれは、「今まで色んな料理を食べてきたけれど、母さんの手料理よりも美味しいものは無かったな」の意味であり、「母さんありがとう」だとか「あの世で会えるね」だとか考えているのかもしれません。
……と、このように、回答例3にはある程度想像の余地があります。文字数 < 情報量でもあります。回答例2よりもエモい台詞だといえるでしょう。
回答例4について
主人公は人付き合いが苦手な人物。
しかし、ふと今までの人生を思い返してみて、周囲の人々から大いなる優しさを受け取っていたこと及びそのありがたさに気が付き、噛み締めながら、「あったけぇ」
死の間際に友人や家族を思い出しているので、本質的には回答例2「みんなにもう一度会いたかった」の仲間です。
しかし、こちらの方が回答例2よりもエモい台詞だといえます。文字数と情報量との大小関係を見てみましょう。「あったけぇ」は「あったかい」の意味ではなく、「自分は今までみんなに優しくされていたんだな」「自分はみんなのことが大好きだったんだな」「みんなありがとう」のような意味だと思います。つまり文字数 < 情報量であり、想像の余地があるのです。この点で、回答例4は回答例2よりもエモいです。
では次に、回答例3と比較します。回答例4を見た時、次のように考えた人がいたかもしれません。
「雪山」で「天候は荒れ」ているのに、「あったけぇ」とはどういうことだ?
回答例4の台詞は、字面だけ見るとシチュエーション的にあり得ない台詞です。なぜ主人公は「あったけぇ」と言ったのか、自然に想像してしまいます。対して、回答例3の台詞は、字面通り「お腹がすいた」という解釈でも、意味は通ります。この点で、回答例4は回答例3よりも良い台詞であるといえます。
回答例4は、読者へ「主人公の心境に思いを馳せる行為」を強制する台詞なのです。エモさを感じることを強いる台詞と言い換えることもできます。
回答例4のような、「この台詞はどういう意味なんだろう」と考えずには居られない台詞の方が優れていると考えています。
LWQで台詞力を鍛えよう!
さて、ここまでLWQの一例として「雪山で遭難」というシチュエーションを扱ってきましたが、主人公以外の登場人物が居ない状況ならば*3、他の設定でも構いません。例えば、砂漠で遭難して・海で溺れて・人通りの無い道で倒れて・etc。どのシチュエーションにおいてもLast Words Questionsであることには変わりません*4。設定を色々と変えて楽しんでください。
さらに、どのシチュエーションにおいても最適解はありません。LWQは、ゴールのない問題なのです。繰り返し考えて、少しずつ より良い答えを出せるようにトレーニングしていきましょう。考え続けることで台詞力が向上していきます。紙とペンすら要らない問題ですから、暇さえあれば取組んでみてほしいです。
また、LWQは、台詞をどう考えればいいのかわからないという方から、もっとエモい台詞を書きたいという方にまで、幅広い層に有効な問題です。
前者の層に対しては、登場人物が主人公1人ですから、「このキャラクターはどういうヤツなんだろう」といった観点から台詞を考えざるを得ず、「キャラクター性を台詞に反映させる」習慣付けができます。
後者の層に対しては、「短くてイイ台詞」を考えるトレーニングとなり、それはエモい台詞を考える力へと繋がっていきます。
実施する人のレベルを問わないため、複数人で回答を持ち寄ってワイワイ議論する、そんな使い方も可能だと思います。
他にも、「死の間際」という、物語に頻出するシチュエーションが対象なので、以下のような利点もあります。
- 既存作品のシチュエーションを参考にでき、類題を作りやすい
- 既存作品の台詞を参考にでき、分析・研究・勉強がしやすい
- 考えた答えをストックしておくと、自作品に類似シチュが出てきたとき 流用できるかもしれない
「台詞力を鍛えたい」方は、LWQをぜひとも一度お試しあれ。
終わりに
台詞を推敲する際の着眼点などは巷に溢れていますが、日常的に実施できるようなトレーニング手法を紹介しているものは少ないように思えます。これは台詞だけに限らず、物語創作界隈全般における課題といえます。漫画原作制作に関しては特に顕著で、画力向上を目的としたトレーニング手法は山ほど公開されていますが、原作作りとなると全くです。その点で、この記事にはある程度の新規性・有用性があると考え、執筆しました。誰かの創作の助けになれば幸いです。
本記事に関するご質問などは、私が所属する個人事業所 浮曇想作所の質問箱に投げていただくのが一番気軽かなと思います。もちろん、ホームページに記載されているメールアドレスからコンタクトを取っていただいても構いません。
浮曇想作所を、今後ともよろしくお願い申し上げます。
文責: はんすおい
協力: 浮曇非路 (Special thx: ぶんちょう)