物語のフレームワークとして三幕構成が有効なのってどうしてさという話
はじめに
イイ感じのお話を手っ取り早く書きたいそこのあなた。
長いものには巻かれとけ、ということで、三幕構成を採用してみてはいかがでしょうか。
三幕構成をご存知ない方は、その目の前にある通信機器で検索してください。いっぱい情報が出てくるはずです。
しかし、なぜ三幕構成が有効なのかを解説しているページはそれほど多くないように思えます。
なぜ有効なのでしょうか。この疑問に答えるためには、「そもそも物語って何だろう?」ということを考える必要があります。
目次
物語とは何か?
これは非常に根源的な問いだと思います。この問いに対する答えは、人によって少しずつ違ってくるでしょうが、ここでは以下のように定義しておきます。
物語 = 変化
物語とは何らかの変化を描いたものなのです。その変化が正の向きならばそれは「喜劇」だとか「ハッピーエンド」だとかと呼ばれ、負の向きならば「悲劇」・「バッドエンド」と呼ばれるわけです。
例えば以下の物語は次のような変化を描いています。
- ケムリクサ
- 【物語開始時点】主要人物たちは、アカムシと呼ばれる敵に襲われつつ、荒廃した世界で日々を送っている
- 【物語終了時点】アカムシをなんとか打ち滅ぼし、豊かな自然に囲まれた世界での生活を送り始める
- 孤独のグルメ
- 【物語開始時点】主人公は各話の開幕でいつもお腹をすかせている
- 【物語終了時点】ふらりと立ち寄ったお店での食事に概ね満足して帰路につく
- 鬼滅の刃
- 【物語開始時点】主人公は鬼に家族を虐殺された
- 【物語終了時点】主人公たちは鬼を打ち滅ぼし、戦友たちとみんなで仲良く暮らす
あるいは、以下のような「人間関係の変化」も「物語」になります。
- 初対面の男女が恋愛関係になる(ラブ・ストーリー)
- 険悪な仲だった2人が、部活動を通じて親しくなる(スポ根)
- 信頼していた人物に不信感を抱く(サスペンス)
とにかく、何かが変化したらそれは物語なのです。大衆受けしやすいのは正の変化ですが、負の変化も立派な物語です。
逆に言えば、何も変化しなければそれは物語とは呼べないでしょう。物理的・精神的問わず、必ず「何がどう変化したのか」に気を配りながらお話を作っていく必要があると思います。
物語 = 変化。この定義式が本記事の鍵となるのです。
なぜ人々は物語 = 変化を求めるのか
それは、ほとんどの人は「変化したい」と思っているからです。
多くの人は、「もっとこうなりたい」「もっとああなればいいのに」というような変化を求めています。「いっそどうにでもなってしまえ」というような破滅願望も、「変化欲求」の1つかもしれません。
そして、変化欲求を持ってはいるけれど、実際に変化することはなかなか難しくてできないのです。変化欲求とは厳密にいうと「変化後になりたい欲求」です。
変化前の状態は、満足はしていないかもしれませんがある種安定しているので、そのままでいる方が楽なんですよね。「変化後になりたいけど、変化の過程が不安定で大変だからこのままでいいや」と思ってしまうのです。
そのため、物語の中に変化を見出すことで、求めているけど実現できない「変化」を疑似体験しているのだと考えています。
三幕構成とは変化のモデルである
さて、前節で「変化」の流れについて軽く触れましたが、詳細に見ていきましょう。変化は次の3ステップで起こります。
- 変化前 (安定しているが、現状に満足していない)
- 変化中 (不安定で、すぐに対処しないといけない問題が発生する)
- 変化後 (現状に満足しているし、安定もしている)
具体例で見てみましょう。
- 冒険譚
- 変化前 (故郷の村とかで平凡な日常を送っている)
- 変化中 (魔王的な存在が世界の平和を脅かし始めたので、そいつを打ち滅ぼすため冒険に出る)
- 変化後 (魔王をやっつけ、世界に平和が訪れる)
- ダイエット
- 変化前 (特に不自由なく生活しているが、痩せたいなぁと何とな~く思っている)
- 変化中 (運動したり、食事制限をしたり)
- 変化後 (ダイエットに成功し、運動などが習慣付いたためリバウンドも
しばらくはない)
このように、異世界RPG系の「変化」も日常的な「変化」も全て3ステップで起こるのです。
ん? 3ステップ? 3? どこかでこの数字を見たような気が……
あーッ、三幕構成も3だァーッ
はい。
そう。三幕構成とは、「変化」を抽象化して扱いやすくしたモデルなのです。
そして、物語 = 変化 の定義式があるため、三幕構成を物語のモデルとして使える。そういう関係なのです。
三幕構成で変化を描く
三幕構成の概要を説明してみます。詳しく知りたい人は適当にググってください。
- 第一幕: 変化前の状態を描く
- 第二幕: 変化の様子を描く
- 第三幕: 変化後の状態を描く
三幕構成はこのようになっています。そしてここでいくつかのポイントがあります。
- 第一幕から第二幕へ移るきっかけとなる出来事が必要
- 不安定な状態に移行するリスクを負ってでも変化せざるを得ない、のっぴきならない事態になる
- 「きっかけとなる出来事」は、主人公の動機になる
- これを三幕構成の専門用語で「第一プロットポイント(以下 PP1)」とかと言います
- 第二幕は途中までうまくいくが、あるタイミングで、主人公を挫折させるような事件が起こる
- これを三幕構成の専門用語で「ミッドポイント(以下 MP)」とかと言います
- MPで第二幕を2つに分けたものが「起承転結」です
- 第二幕から第三幕へ移るきっかけとなる出来事が必要
- 「無事変化できました。めでたしめでたし」ということをお客さんに示す
- これを三幕構成の専門用語で「第二プロットポイント(以下 PP2)」とかと言います
同様に具体例で見てみましょう。
- 冒険譚
- 第一幕: 故郷の村とかで平凡な日常を送っている
- PP1: 親族が魔王に殺されるとか、恋人が攫われるとか
- 第二幕: 魔王的な存在が世界の平和を脅かし始めたので、そいつを打ち滅ぼすため冒険に出る
- MP: 相棒キャラが戦死するとか、魔王の側近に惨敗するとか
- PP2: 主人公は挫折しかけるが、主人公故に再び立ち上がる
- 第三幕: 魔王をやっつけ、世界に平和が訪れる
- 第一幕: 故郷の村とかで平凡な日常を送っている
- ダイエット
- 第一幕: 特に不自由なく生活しているが、痩せたいなぁと何とな~く思っている
- PP1: 異性に一目惚れをし、ダイエットを決意
- 第二幕: 運動したり、食事制限をしたり
- MP: 暴飲暴食の誘惑・停滞期による焦り
- PP2: 自分を律し、一目惚れした異性への想いを強めながらダイエット続行
- 第三幕: ダイエットに成功し、運動が習慣付いたためリバウンドも
しばらくはない
- 第一幕: 特に不自由なく生活しているが、痩せたいなぁと何とな~く思っている
世にある多くの物語も、日常にあふれている変化も、全て三幕構成で説明できそうですね。
総括
- 物語とは変化である
- 変化は3ステップである
- そのため、物語も3ステップである
- この「3ステップ」のことを業界用語で「三幕構成」と呼ぶ
終わりに
本記事の冒頭でも触れましたが、「三幕構成を使うとイイ物語を手っ取り早く書ける」という情報は巷に溢れていますが、なぜ三幕構成がストーリーメイキングに有効なのかを説明しているものは少ないように思えます。よくわからない道具をよくわからないながら使うよりも、こういう理由でこれは使えるんだ、ということを意識して使った方が効果が出るはずです(筋トレみたいなもんです)。その点で、この記事にはある程度の新規性・有用性があると考え、執筆しました。誰かの創作の助けになれば幸いです。
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文責: はんすおい
協力: 浮曇非路 (Special thx: ぶんちょう)